トイレに座ると、国を感じる。ドイツ旅行初日、到着した空港のトイレを利用した。用を足そうと個室に入り、便座に腰を掛ける。腰を掛けた瞬間に、私はドイツに来たことを実感した。足が地面に届かない。ギリギリつま先が床に触れる程度だった。ヨーロッパ人の平均的な足の長さに設定された便座は、短足山形県民を歓迎してはくれなかった。慣れないバーカウンターのように足はぶら下がり、私は個室の中で最大限のパフォーマンスを披露することができなかった。旅行中、連戦連敗だった。何度も宙ぶらりんになる足、無理矢理にでも床に触れようとするつま先。私は感じた。「この国に足が短い人間はいない。」
若干の敗北感を抱えながら、帰路についた。日本の空港に到着し、私はトイレを利用した。個室に入り、便座に腰をかける。足が地面に届いていた。私は足の裏全体で地面を踏みしめた。今まで感じたことのない足が届く喜び。そして周りを見渡すと目に入る、見覚えのあるウォシュレットボタン。トイレが私に「おかえり、日本へ。」と言っているようだった。トイレが母国に帰って来たことを実感させてくれた。