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感(二期・加藤穂香)

慣れたものには鈍感になる。街のにおい、人々の話し声、雑多なビルや田んぼの風景。いつも眺めるものには、またこの景色かよ、と悪態をついてしまう。

 私はときめきを求めて、海外旅行をする。目の前に広がる日常にうんざりするからだ。この退屈な日常から抜けるためには、どこか違う土地を見るほかない、そう信じて旅先に向かう。

 目的地に到着するとすぐに、日本とは違うにおいを感じ、自分が退屈から抜けたかもしれないとドキドキする。自分とは違うリズムを刻む周りの会話や、見慣れぬ景色を目の前にすると興奮が止まらなくなる。五感で感じるものを逃すまいと必死に過ごす。そうだ、この感じを求めていたのだ。やはり私が求めていたときめきは、旅先にしかない。

 そう確信したと同時に、旅行はあっという間に終わる。またあのつまらない生活に戻るのか。そんな絶望を感じながら、自宅へ向かう。ところが、帰りの道中、思わずハッとさせられた。安心するにおい、聞き慣れた言葉のリズム、見慣れた雑多なビルや青々とした田んぼの風景に、なぜかときめいている自分がいたからだ。改めて目の前にする「慣れたこと」を五感を使い、1つ1つ確かめていたのだ。

 数日過ごしただけの旅行では、何かを大きく変えることはできないかもしれない。しかし、旅行は、自分の生活に多くの気づきを与えてくれるものだと感じる。日々を退屈にしていた自分に、五感の使い方を思い出させてくれるからだ。自分を取り巻くものに、敏感になるということを再確認する、それが旅行の醍醐味であると思う。