人類最速の男

 1014日。ジャマイカを南北に貫く高速道路から北部へ。オーチョリオスを抜けるころには、ライトブルーの透き通った海が広がっていて、その景色を脇目にドライブすること一時間、港町のファルマスに着いた。この町はウサイン・ボルトの生誕地としても有名で、彼の主催するマラソン大会が毎年開かれている。かくいう僕もそのイベントに参加するため、前日から現地入りしたのだった。

翌朝の7:00am。ランナーが続々と集結するなか、ついにボルトが現れる。陽気なあいさつで会場を盛り上げるが、この日はあいにくの雨。話もそこそこにマラソンがスタートすることになった。コースのどこかでボルトと2ショットを撮ることができるという噂だったが見当たらない。あれで見納めか...と思っていたらゴール後の協賛ブースで長蛇の列ができている。皆のお目当ては当然ボルト。120秒でポンポンまわしていく様子はスーパースター。感極まってハグする女性にも真摯に応えていた。 

ロンドンの世界陸上から2ヵ月。彼は引退後もファンサービスを続けている。街には「ライトニング・ボルト」を模したネット回線の広告やスポーツ商品であふれ、人気は衰えることを知らない。一方、児童福祉のために本大会を企画する(参加費は全て寄付される)など、思いやりのある一面も見せる。そんな彼の姿はジャマイカ国内を超えて、多くの人の心を打つに違いない。世界一速い男は、世界一感動を与える男でもあるのだ。 【大野友暉】

 

一枚目、早朝のファルマス。岸のほとり。(写真提供J. K

二枚目、ランナーに呼びかけるボルト。