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旅行は近場でも可能だ(二期・川口拓眞)

 

今日も学校をサボってしまった。そんな日は決まって大宮に行く。最寄りの駅から学校とは反対方面に向かう電車に乗り、10分足らずで到着する。東口から10分も歩けば行きつけの古着屋に着く。

 

大宮駅に降り立ったときにふと感じた。腹が減った。だが、これといって食べたいものはない。どこかにいい店はないかと探していると、いつも通る道沿いに立ち食いそば屋があるのを思い出した。勇気がなくて入ったことはなかったが、今日は入ってみよう。そば屋の扉を開けた。カウンターのみの小ぢんまりとした店内には、スーツ姿のサラリーマンが2人、黙々とそばをすすっていた。カウンターの向こう側の従業員たちも黙々とそばを茹でている。そんな空気感に圧倒されながら、私はサラリーマンたちの間に陣取り、かけそばを注文した。熱々のかけそばが出てきた。一口すするとかなり熱い。なかなか食べ進めることが出来ない。だが、そうしている間に左右に立っていたサラリーマンたちは食べ終え、また新たなサラリーマンが入れ替わりで入ってきた。そばを注文し、出てくると、黙々と食べ始めた。

 

私より後に食べ始めた別のサラリーマンも食べ終えて、店から出ていく。客が入れ替わり、少しずつ店が混んでくる。私は飲食店で食べることに、初めて焦りを感じた。社会に出ると、ゆっくり昼食を取ることもできないのだ。社会の厳しさを、身をもって体感した気分だった。

 

旅行に大切なのは場所でなく、新しい物事に触れ、新しい世界を観て、感じることなのかもしれない。舌がひりひりする。明日はちゃんと学校に行こう。