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旅の収穫(一期・比田井健)

 小学生の頃、2年ほど中国に住んでいたことがある。中国と日本のハーフということもあり中国文化には慣れていたのだが、幼い頃の私が大嫌いであった催しが中国には存在する。

 「鬼節」だ。直訳すれば「幽霊の日」というこのイベントは、日本でいうお盆とよく似ている。中国ではこの鬼節が先祖を祀る大切な日であり、閻魔大王が冥界の門を開き霊の魂をこの世に連れてくる。という伝説がある。地域によって風習は異なるが、あの世でもお金を遣えるように紙で作った紙幣を燃やし先祖へ捧げるといった習慣だ。私はこの行事がとても怖かった。水辺では遊んでは行けない、夜は外出しない、気配がしても振り返っては行けない、などたくさんの禁止事項がより幽霊の存在を助長していたからだ。街を歩けば十字路で紙幣を燃やしている人で溢れ、どんよりとした空気が漂う。その日だけ私は異空間にいる様であった。

 日本に帰国後、私は当たり前とされていること、当たり前だと決められていること、に強く疑問を抱く様になった。中国で過ごした期間が私に疑うことを教えてくれたのだ。親の転勤という名の旅であったが、その旅で得られたことは私の宝物である。