「神の草」とラスタに扱われる大麻*は、吸って瞑想することで神を感じることができるそうだ。ここでいう「神」とはエチオピアの皇帝、ハイレ・セラシエ1世を指す。なぜジャマイカで始まったラスタが、エチオピアの皇帝を崇拝するのかについては、話が長くなってしまうので割愛したい。とにかく彼らは、生きている黒人を神として祀ったのである。
夜中の1時ごろ、11月2日。この日はハイレ・セラシエ1世の戴冠式の日。今は亡き”黒人の神様”に向けて火が捧げられた。火を囲むのは老若男女のラスタたち。聞こえてくるのは、アフリカ的(民族的)とも言われる打楽器と歌のリズム。彼らの思いに応えるかのように、火は炎へと変わり火柱をあげた。
この儀式に僕自身も参加する。ただのキャンプファイヤーと違うように感じたのは、火からの距離が近くて想像以上に熱いこと、そして、子供を除く全員の目が据わっていることだった。今までの人生からは想像もできない異空間。あまりの場違い感に息苦しささえも覚えた。
時を忘れ、ラスタは歌い、踊り続ける。火がしぼんで炭に埋もれるころには、朝を迎えていた。(続く 【大野友暉】
*大麻はジャマイカで違法。しかし56gまでなら500円程度の罰金で済み、犯罪歴にも残らない(2015年にそう改定された)。違法性はあってないようなものという感じで、街中でも僕の寮でも、吸っている人がたくさんいる(喘息のため僕は大麻を吸っていません)。日本でいえば駐車違反ぐらいのイメージかもしれない。ラスタたちの大麻は法改定以前から常習化していたので、時代に合わせて吸い始めたわけではない。