私は何をしているのだろう。クーラーの利かない、蒸し暑いホテルの一室で、私は一人読書をしていた。
大学4年の夏、初めて一人で飛行機に乗って訪れたのは、三度目のカンボジアだ。10時間以上のフライトは疲れたが、案外一人でもできるのだと自信が持てた。宿泊予定のホテルで、その日の夕方頃にバンコクから入国する友人たちと合流する計画だった。私の到着がお昼頃だったから、3時間以上暇があった。
何でもできたはずだった。その日はよく晴れていたし、ホテルは大きな都市のすぐそばだった。お金も時間もたっぷりあった。いつでも出かけることはできた。それなのに、私は一歩も部屋の外に出なかった。
自分でも衝撃だった。外の知らない世界が急に恐くなってしまったのだ。私は大人しく恐怖を受け入れ、読書をし、動画を見て、それから母に電話をした。久しぶりに聞く声に、素直に気持ちを打ち明けてみた。
あははと笑って、良いじゃないか、と母は言った。旅先で何かをしなくてはいけないなんて、そんな決まりはない。今日は休んで、明日から動きたければ動けばいい。かなりのお金と時間を費やすのだから、旅行は楽しくなければならないし、旅行は一生の思い出にならなければならない。そう思っていた私は、心がすっと軽くなった。
感じた恐怖も退屈も、それもまた旅行でしか味わえない経験だ。自分の気持ちに素直になりながら、自分で旅行をつくり出す。旅行は、もっと自由でよかったのだ。