地のない国(一期・澁谷桂子)

 大学に入ったらいろんな国に旅行をする。高校生の頃からずっと決めていた。
  入学した4月、大学は授業よりも真っ先にサークルや部活の紹介、発表で大学が溢れていた。そんなキラキラした先輩たちを横目に友人が見に行きたいと言う部活の発表場所に向う。目的地に着くとそこには華やかなドレスを身にまとった女性と少しヒールの付いた革靴を履いた男性がペアで踊っていた。私は大学入学と共に学生競技ダンスに出会ってしまったのだ。
 多くの国に旅するはずが、一つの国で旅をすることにした。競技ダンス部という国の入国手続きは木蓋に油性ペンで名前を書くのみ。これからの道のりが楽しみでしょうがなかった。
 学生競技ダンサーの最終目的地は4年の12月にある冬の全国大会。この試合を経て学生競技ダンサーは皆この国での旅を終える。そして2017年12月10日。4年間かけた旅が終わった。
 冬の全国大会を経て競技ダンス部を出国し、今私の部屋には旅中で貰った自分の笑っている写真たちでいっぱいだ。土産の賞状やトロフィーはもう装飾と化してしまった。あぁ、楽しかった。私の大学生活を捧げたあの国は幻となっていた。