いざ、大自然へ

 車を走らせること約1時間。厳密には乗っていただけなので”走らせてもらうこと”になるのだが。いよいよ目の前に高々とそびえる山々の中に入ろうとしている。

 卒業してから1週間程経ったこの日、ホームステイ先のホストマザーの提案で他のルームメイトたちと共に山へBBQをしに行くことになった。メンバーはホストマザーのSandi、美容師のEriko、とびきり美人のStephani、そしてボーダーコリーで僕の相棒のSoxyだ。

 目的地はロッキーマウンテンだ。北はカナダの北東部から南はアメリカの南西部まで、約4500kmに渡って連なるこの山脈はカナダを代表する観光地の一つともいえる。そんなロッキーのお膝元であるカルガリーはこの山の入口としても有名だ。ロッキーマウンテンに向かう国外からの観光客はこの地に降り立ち、週末には多くのカルガリアン(カルガリーに住む人々のことを指す)が家族や友人とキャンプやハイキングに出かける。今まで幾度となく試したが、結局毎回行けずにいた僕にとって今回の小トリップは願ってもないものだった。

 天気はあいにくの曇り空。時間が経つにつれて、バンクーバー側からやって来る太平洋原産と思われる湿った空気により雲が厚くなってきたが、雨が降るまでには至らない。曇り男の能力をここカナダの地でもいかんなく発揮する。

 BBQを始める前にたくさんの場所に立ち寄った。最初に寄った沼は、これで生き物が生きていけるのかと疑うほど突き刺すように冷たくて透明だった。何番目かに訪れた湖はたとえ水切りチャンピョンがベストコンディションで石を投じたとしても、対岸に辿り着くことができないだろうというくらい巨大だった。

 道中、短い脚を懸命に伸ばし、僕の太もも並みの太さの腕を使ってハンドルを握るダイエット中のSandiの傍らで彼女にポテトチップスをあげるのが車内での役割だったのだが、彼女が興味深いことを教えてくれる。何でも、車が道路のわきに停まっていたら、それは辺りに野生動物がいる証拠だという。しかもこのエリアは熊がよく出没することで勇名らしい。すると早速前方に2台の車が停車している。注意深く目を凝らして見てみると、鹿だ。木々の間に身を潜めながらこちらを見つめている。その後もビッグホーン・シープという名の牛や、プーさんでおなじみのゴーファーなどたくさんの動物に出会うことができた。残念ながら念願の熊を見ることは叶わなかったが、それは次回のお楽しみにしよう。

 川辺で水の流れを聞きながら食べたハンバーグは最高だった。この日の小旅行で大自然をだいぶ満喫できたというのに今回訪れたエリアはロッキーの序の口だという。それこそロッキーマウンテンのロの字ほどしか来ていなかったというのか。

 広すぎるぞロッキー。でかすぎるぞカナダ。    【染谷祐希】

(1枚目)こちらがその羊という名の牛たち。(2枚目)ちゃんとスーパーで買った肉です。1枚目の写真を見てはいけません。(3、4枚目)初めて見たbear-proofの文字。熊が簡単にゴミ箱を開けられないように工夫が施してある。