エスケイプ②

 僕のニーズを完璧に満たす我が新居だが一つ問題がある。とてつもなく汚いのだ。

 確かに見るからに古く、トイレを流せば5分以上騒がしいし、上の部屋に住む同居人のうめき声は毎日のように聞こえてくる。ただ、それ以上に不潔なのだ。

 引っ越して最初の数日間は家の掃除に明け暮れた。おじさんの臭いが染みついた枕カバーとシーツを洗っては干すを繰り返す。水垢がこびりついたシンクとシャワーをごしごし磨く。塵と埃と髪の毛が無数に散りばめられたカーペットの上で、日本から送ってもらったコロコロをひたすら転がす。スーパーで買ったファブリーズのようなスプレーは1日で半分もなくなってしまった。

 すぐに牧場に行くからこんなもんでいいかと、妥協して家を選んでしまった自分を恨めしく思う。

 でも、きっと大野友暉がジャマイカで収監されていた寮という名の牢獄はこんなものではなかったはずだと、自分で自分に言い聞かす。そうだ、あのウルフルズも男はバイタリティだと歌っていたではないか。

 それにしても引っ越しをしてから目が痒くて痒くてしょうがない。どんだけ不衛生なんだここは。あぁ、やっぱりシャバの空気が吸いてーーー。  【染谷祐希】

(1枚目)なぜか売りに出されているマイホーム。先日は台所の床から何百匹という蟻が湧き出てきた。こんな家を一体誰が買うというのか。(2枚目)こちらが玄関。普通ならガラスが張られている外扉も、今やその骨格のみ。もはや扉としての役割を果たしていない。