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 今日はカナダに来て初めて働いた場所を紹介する。

 6月は月の始めに学校を卒業して、カウボーイになるべくファームを探すものの、見つからないまま、時間だけが過ぎていく日々だった。そろそろ事前に日本で準備してきたお金の底が見え始めた頃、僕は決めた。どこでもいいから働くことを。

 そこで選んだのがジャパニーズレストランだ。ちょうど7月の1日にオープンしたばっかりだったので、その次の週から働くことになった。その名も「TOKYO STREET MARKET」だ。

 この店のオーナーは、既にカルガリーで日本食レストランを数店経営している小金持ちだ。聞くところによると、今回僕が働くことになったこのレストランは、彼の提案によって、それまでのコンセプトとは異なり、安さと早さを売りにしたものにしたという。

 店内には日本でならどこででも買えるお馴染みのお菓子や飲料が取り揃えられている。そしてラーメンやおでん、焼き鳥など、メニューのほとんどが5ドルで提供されている。

 これが売れた。お店には連日行列ができ、メディアによる取材や撮影も度々行われた。あまりの忙しさに社員の人たちは週7日、1日12時間以上労働の日々が続いた。嬉しいことに、オープンして1ヶ月後には皆の給料が上がった。

 この絶好調を支えるのが、僕ら労働者だ。キッチンには主に中国と韓国からの移民、そしてホールは主に日本人が働いている。そこに現地のカナディアン少々といった感じだ。そのためキッチンでは中国語と韓国語が飛び交い、ホールでは日本語が話される。お互いの連携が必要な時は公用語として英語の出番だ。

 その様子はまるで、小さな1つのレストランに、カナダの現在がまさに丸ごと凝縮された、「ミニカナダ」の様だった。人口の減少が進む日本でも、同じような景色が、日常的に繰り広げられる日はそう遠くはないのかもしれない。仕事場で、カナダの今と、日本の未来を垣間見たような気がした。

 しかし9月の始め、そんな職場と別れを告げ、次の場所へ向かうことになるのだった。 【染谷祐希】

(写真)店内に掛かる貼られている日本地図。赤ピンは日本人の出身地、それ以外の色は旅行で訪れたことがある場所を指している。やはり東京・京都・大阪が人気なようだ。(7月月14日に撮影)