迷子になりたくないし、効率的に目的だけを果たしたい。私たちはスマートフォンの「最強地図」を片手に、歩き慣れないはずの街を我が物顔で早歩きする。
デバイスに正式名称を打ち込み、正しい到着予想時間を逆算して、答え合わせするように目的地まで足を動かす。慣れ親しんだ行為だが、得をしているようで損をしている気がしてならない。目的地だけが現実で、それ以外の街並みは代替可能なフィクションになってはいないか。
わたしは今、嘘の地図が欲しい。所在地は同じでも、名称がでたらめに入れ替わった東京の地図が欲しい。東京タワーをゴディバ日本橋店と呼び、セブンイレブンを国会議事堂、渋谷109を大江戸温泉物語と呼ぶ、そんな「でたらめ地図」があったらいいのにと思う。
目的地には一生辿り着けず、諦めて帝国ホテルという名前の古びた喫茶店で、意外と美味しいコーヒーを飲むだろう。どこにでも行ける時代だからこそ、非効率に迷子になりたい。目的地以外の穴場に出会いたい。どこかでそう強く思うのだ。