私は20年間ずっと蒲生に住んでいる。駅までの道のりも完璧に覚えているし、当然ながら迷子になることはない。頭の中に「完璧」な地図がある。
私の家から駅までは10分。久しぶりに母の夕飯の買い物に付き合った帰り道、「この定食屋さん人入ってるのかな?」と母が一言呟いた。その定食屋は少し古びた外装に、サバの味噌煮などのディスプレイが飾ってあった。何度も通ったことはある道だし、定食屋の存在は知っていたが、どんな店であるかは気にも留めていなかった。
まだまだこの街には、知らない店、入ったことのない店がたくさんあるのだろう。あえていつもと違う路地を歩き、おばあちゃんのおせんべい屋に入ってみるのもいいし、神社によってみるのもいい。まるで地図に色付けしていくように、街を探索することは案外いいかもしれない。
いつもぼーっと歩いている私の頭の中の地図は、「完璧」な白地図だった。