黒②

 これから行われるのはネイティブスウェットという儀式だ。海パンに着替えるために移動した控室から外を見てみると、木の枝でこしらえた骨組みに何重にも布団が掛けられたテントがある。その中で儀式は行われるようだ。

 いざ外に出てみると寒い。時刻は17時。9月でも夕方になれば気温が一桁まで下がるのだから当然だ。

 今回参加するのは15人。人数はその日によって違うらしい。上は80を越すおじいちゃんから、下は3歳の子供まで、家族・親戚が毎週日曜日に集まりこの儀式は開催される。

 テントの中に入ってみると少しマシだが、まだ肌寒い。中央には深さ30cm、直径60cmくらいの穴がある。そしてそれを囲う様にわらが敷かれている。その上に、女性は入口から見て右側、男性は左側に座る。

 しばらくすると、見守り役として外で待機している門番から、焚火で熱せられたハンドボールくらいの大きさの石が運ばれてくる。それを入口を挟んで長老と反対側に座る彼の息子が中央に入れていく。穴の3分の2程が埋まり、最後にバケツに入った熱湯が持ち込まれたところで長老が合図を出した。すると門番がテントの上に掛けられていた布団を入口を塞ぐように下ろしていく。針を通すほどの隙間もない。こうしてテントの中は真っ暗になった。

 人生でこれほどの暗闇を経験したことがあるだろうか。日本での帰り道はいつも街灯に照らされている。滞在している牧場の周りは街灯がないから星が綺麗だ。それでも月と星々のおかげで、わずかではあるが視覚を使うことはできる。しかし、ここは真っ暗闇だ。いや、光が入ってきていないのだから暗も闇もこの状況を表現するには不適切かもしれない。 

 入口が閉められて沈黙がしばらく続いた後、長老が何か感謝の意を表したいことはあるかと皆に尋ねた。家族・自然などそれぞれが思いの丈を述べていく。僕もこの儀式に参加させてもらえることにお礼をした。

 再びの沈黙の後長老が焼け石に熱湯をかけた。ジューという音と共に蒸気がむくむくとテント内に広がっていくのを感じる。いよいよ儀式が本格的にスタートしたのだ。(続く)【染谷祐希】