熱い。熱気がどんどん広がっていくのを感じる。瞬く間に体は汗でびっしょりになってしまった。さっきまでのひんやりとした空気はどこへやら。今となっては熱さで息が苦しいほどだ。
そんな中彼らは歌いだした。英語ではない自分たちの言語で自然と先祖を敬い、感謝を示す。腹の底から奏でられたそのハーモニーが、自分がサウナではなく神聖な儀式に参加していることを再確認させれくれる。
これがしばらく続いた後、長老の合図でテントのドアが開けられ、しばし休憩に入った。冷たくて美味しい空気が一気に流れ込む。そして5分くらいたった後に再び扉は閉められた。この一連の流れを計4回繰り返す。2、3ラウンド目の間には、先祖への感謝を表し、そして彼らとのつながるための道具、パイプが皆に回された。長さ60cm程のパイプの先端には煙草でもマリファナでもない匂いの草が入っていた。後で中身を聞いてみたが「秘密だよ」と、教えてくれなかった。
そうしている内に扉は閉められテントから光は出ていく。超高温密室状態のせいか、はたまたさっきのパイプのせいか、頭がふらふらする。次第に自分が目を開けているのか閉じているのかわからなくなる。どちらにしても目の前に広がっているのは黒一色だ。そこには黒の空間がある。自分の身体がその空間自体である気もするし、地球を突き抜け宇宙のどこかまでその空間は広がっている気もする。
結局ファーム滞在中にこの儀式には5回参加したが、最後まで同じ感情を抱き続けた。
儀式の後には食卓を囲んでご馳走だ。旧知の仲である牧場のマザーと長老の昔話を筆頭に、みんな色んなことを教えてくれる。美味しい日本食料理屋の場所から、この地に残る伝説まで様々だ。ある時は、自分たちの祖先がユーラシア大陸から北米大陸に渡ってきた時には、既にヴァイキングの人々はこの地に住んでいたという、今までの通説を覆す、歴史学者もびっくりの仰天エピソードもあった。
遠足は帰るまでが遠足なように、この黒い空間で行われる儀式も、皆で喋りながらお腹も心もいっぱいになるまでがその儀式なのだろう。しかしその目的以上に、毎週家族・親戚が集まる習わしがある、そのことに驚きと少しの羨ましさを感じたネイティブスウェット体験だった。(染谷祐希)
(写真)今回のブログに度々出てきた長老。Alex Javierという名前なのだが、なんとオタワにあるカナダ国立美術館にその絵が展示されるほどのアーティストだった。現在はバチカン市国に依頼されて作品を作っているとかいないとか。