· 

ただの遅刻のはなし(二期・中植渚)

 「目的地まであと20分です」現在地から目的地へ、道しるべとしての地図は私を助けてくれる。音声案内に従って、慣れない銀座を速足で歩いていた。
 ふと、電池残量が残り9%だと通知がくる。地図がないとわからないから、急いで機内モードにし、インターネット回線を遮断した。しかし今度は現在地がわからない。立ち止まり、過去歩いてきた道を目で辿る。私はなんとか自分が今、どこにいるのかを探し当てた。
 地図は道のりでもある。そこに描かれているのは、現在地と目的地だけではない。自分がこれまで辿ってきた痕跡も残っているのだ。かつてのそれがあるから、わたしは今ここにいる。迷ったら、これまでの道のりを振り返れば自分の場所がみえてくる。
 道しるべの地図は必要だ。最短距離も知りたい。でもたまには、過ぎ去っていない過去をみるために地図を使おう。人々は私の横を足早に通り過ぎていく。それでも私は歩く速度を落とし、自分の目的地に向かった。