冬休みを利用して、キューバにやってきた。寒さを苦手とする私にとって、楽園のように暖かい。足をのばしてカリブ海での休暇、空模様を見るだけでも胸が躍る。そんな私をクラシックカーが迎えてくれた。60年前のものだそうで、年季の入ったエンジンは起動に時間がかかる。街並みは、メキシコと似ているようで何かが違う。違和感も覚える。それはなぜか、すぐにわかった。広告がないのだ。メキシコではよく命令形で宣伝してくる看板やトラックについ目を留めてしまうが、ここでは情報量が圧倒的に少ない。ときどき、キューバの国旗や英雄たちの顔や言葉が並べられた看板を見かけるくらいだ。これが、社会主義国というものなのだろうか。到着してすぐに、それを目の当たりにした。
しかし観光地として、楽しみは盛りだくさんだ。まず、旧市街オールドハバナ。多くの観光客や観光バス、タクシーが古い街並みと混ざり合っている姿は、現代的だ。歩いていると、常に「タクシー?」と声をかけられる。お土産屋のショーウィンドウを横目に、建物が並ぶ通りを歩き回る。どこまでもお洒落なつくりを、たくさん写真に収める。やはり暑く、木陰で涼める広場がありがたかった。しかし、海がすぐ近くにあり、開放的な雰囲気で気持ち良い。ホワイトハウスを真似て作ったという圧巻の旧国会議事堂、Capitolio。中心にあるキューバの国旗が、風でゆっくりとなびいている。また、要塞があるというのが新鮮で、その眺めは堂々としていて力強い。ハバナには3つ要塞があり、守られるべき地であったことがうかがえる。ハバナ湾を隔てて立つカバーニャ要塞は、手芸品の国際展示会で賑わっていた。要塞の広さを利用して、定期的にこのような催しが開かれているそうだ。一方でまだ残っている大砲、その先に見えるハバナの夜景はとても美しかった。
トリニダーにも訪れた。ガイドブックにはこう書かれていたが、伝えるためにはトリニダッ(ダにアクセント)のほうが良さそうだ。サトウキビのプランテーションで栄えた古い町で、近くにある渓谷とともに世界遺産に登録されている。続く石畳にコロニアル建築。カラフルな壁と煉瓦の屋根との組み合わせが、ヤシの木に似合っている。歩いていると、自分がいつの時代にいるのかわからなくなる。そこに馬が通ると、いよいよタイムスリップしたような気分だ。奴隷を用いた砂糖業が繁栄したことで社会的に発展できた、と博物館の展示にあった。塔の上から見えるこの素晴らしい景観も、歴史あってのことなのだ。私が休んだ広場では、かつて奴隷売買が行われていたそうだ。レストランから聞こえてくるキューバ音楽は、陽気な旋律の中に悲しさも感じる気がした。【大沼歩実】