私が訪れていたのは、「キューバ」だったのだろうか。
キューバでは、2つの通貨が使われている。国内に流通するCUP(またはMN)と、外貨と交換可能なCUCだ。1CUCは1ドルとほぼ同じ価値だ。現地の人のための店ではCUPが主に使われるが、約25CUP=1CUCのレートで、誰でも利用できる。しかし、それらの店はどこか外国人を寄せ付けないように思える。それでも、辿り着いたCUP払いの小さな食事処に入ってみた。2CUCでお弁当のようなものを買えた。観光客向けのレストランでは一食8CUCほどだから、異なる物価の実態がわかる。現地の生活に入り込んでみたくて利用したが、違いが浮かび上がってきた。さらに、CUPに印刷されているのは英雄たちや″patria o muerte(祖国か、死か)"というチェ・ゲバラの言葉。一方、CUCに印刷されているのは有名な観光地。観光客向けのものと完全に分かれているバスに始まり、観光とは別に住民の世界がある。その間には、一線が引かれているように思えた。
確かに、私の想像には及ばないような生活がある。各家族に渡されるlibretaという冊子を見せてもらった。キューバでは牛乳や肉といった基本の食品が配給制で、それを毎月管理するためのものである。無料ではないが、例えばパンは1円ほどで買えるらしい。さらに、平均月給は20CUCだと聞いた。カサ・パルティクラルいう観光客向けの民泊サービスがあるキューバ。私が利用したものは、1泊20CUCだった。外貨を流出させない目的で始まった二重通貨制は、このように外貨を手にすることができる住民とそうでない住民の間に経済格差ももたらしているそうだ。経済改革の一環として、解消する方針が2013年に表明されたが、まだ実行はされていない。
キューバはこの通りだから、娘のように若者は皆出て行ってしまう、というルーミーのお母さんの話が頭を離れなかった。その現状を覗いて、少しばかり複雑な気持ちになった。しかし、民泊でお世話になった方の言葉を思い出す。キューバには海があるし素敵な気候もあるから、もっとたくさんの人に観光に来てほしい、と。私は観光客として、「観光地」キューバを目いっぱい楽しむことができた。
帰り道。メキシコシティで乗り継ぎ、グアダラハラへのフライトは夜中だった。飛行機の窓から見える夜の街、膨大な数の灯に圧倒された。留学以外で、初めての海外旅行だった。考えさせられるが、やはりそれ以上に感動を生む旅行は、楽しい。この灯が無数にあるように、今日も地球上でたくさんの誰かが旅行に出かけていて、きっと同じように「楽しい」を経験して帰ってくる。そんな時代に生まれたことは、なかなかすごいことだ。気力がさらに湧いてくる。そんなクリスマスイブの夜、キューバ旅行は幕を閉じた。 【大沼歩実】
▲1枚目の写真はlibretaのある1ページ。ここには対象として「米、豆、油、砂糖、コンポート、塩、コーヒー、マッチ」が書かれている。