セネガルにあるレトバ湖にいつか行こうと思っていた。嘘のように一面ピンクの湖である。しかし、メキシコにも同じようなピンクラグーンなるものがあると聞いて、奇跡だと思った。今、手の届くところにピンクの楽園がある。行く以外の選択肢はなかった。
目指す場所はラス・コロラーダスだ。キンタナ・ロー州のリゾート地カンクンからバスで5時間の所にある。メキシコでは、長距離移動に電車ではなくバスが発達していて、どこにでもバスターミナルがあるのだ。ツアーで行くのが確実とあったが、そう簡単には見たくない。バスの乗り換え方を調べ上げ、脳内で予行練習もした。前乗りして、当日は朝4時に起きて出発した。
到着するも、思っていたものと違った。薄い。全体的に少し濁っていてうっすらとピンクがかっている程度だった。湖に沿って歩いていると、バイクに乗ったお兄さんに声を掛けられた。ここは所有地なので、25分50ペソ(300円)のガイドなしには絶景ポイントには入れないらしい。湖の入り口には門があり、多くのガイドが待機していた。そして、濃く、はっきりとしたピンクがそこには広がっていた!風で波が立ち、太陽にうまく照らされれば鮮やかなピンクに見えるらしい。雲も少なく、青空とのコントラストが素晴らしい。今日来れたのは運が良かった。
この湖は塩を作るためのもので、バクテリアに含まれる赤いβカロテンによって、ピンクに見える。いくつか湖があり、遠くにフラミンゴの群れが見えるが、ここに来ないのは餌がなく塩分濃度も高いためだ。近くには工場があり、真っ白で巨大な塩の山が見える。塩となればただの白色だ。ここ3年でInstagramによって注目され始め、今では多くて1日3000人も来るそうだ。湖の中に入ったりごみを捨てたりする人が増え、工場が規制しこのように管理される形となった、と話してくれた。街自体は小さく穏やかな雰囲気で、これを観に人が来るのも平和なことだ。近くにいたカップルは、ピンクラグーンを背景に指輪を渡す写真を撮っていた。
昔から好きで、かれこれ10年間、ピンク色に囲まれて生きてきた。そのピンクが、自然界に存在している。バクテリアは、私のように好きだからという理由でピンクを選んでいるのではない。まさに自然の神秘だ。人間は、それを見て感動できる。絶景として訪れることができる。そして、守っていくこともできる。この地球で何でもできるからこそ、その行動に求められるものがある。この絶景に教えてもらった。そんなピンクが、さらに特別になった。 【大沼歩実】