メキシコの味

 「からい」という言葉を耳にするのに気が付いたのは少し前。全く同じアクセントに、ピリッとする食べ物を想像してしまう。だが会話の途中で登場するその言葉、まさか日本語として使っているわけはない。調べてみるとその正体は、”¡Caray!”という間投詞だった。スペイン語で、驚きや感動などを表す俗語だ。

 メキシコ人にとって欠かせない、chile(チレ)。ハバネロやハラペーニョといった唐辛子、ソースやパウダーなど、辛いもののことをまとめてチレという。日常では、ソースが大活躍だ。タコスをはじめとした料理全般、フルーツ、アイス、ポテトチップス、ポップコーン、何にでもチレをかける。聞くところによると、小さい頃から「辛くないものは食べ物ではない」という教えを受けているそうだ。その通り、屋台にはいつもチレのボトルがある。スーパーにはチレだけのコーナーがある。リュックの横ポケットにチレを常備している人を見かけたこともある。

 そんなメキシコでは、チレはもはや調味料なのだ。チーズ味のポテトチップスを買った。パッケージのどこにも辛いとは書かれていないのに、辛い。美味しかったが、ドッキリを仕掛けられたような気分だ。慣れるために子供がよく使うあまり辛くないチレがあり、それを味つけのために使っているのだろうと友達は言う。甘いはずのお菓子も、チレが入っているのが普通だ。例えば、マンゴー味の飴はチレのパウダーで覆われている。こんなにも自然と、チレが生活に溶け込んでいる。

 屋台で、2種類のチレが置いてあった。あまり辛くはないがおいしい、と薦められた方のチレをかけてみた。とても辛い。汗も涙も出てくる。半年過ごしてきて、慣れたと思っていたが甘かった。もっと辛いと言われたもう片方のチレはどんなものなのか。チレが当たり前の国で生きるメキシコ人。彼らにとっての辛さは、ときに想像に及ばない。ああ、からい。 【大沼歩実】

▲①量り売りされている大量の唐辛子。②どのお店にもある自家製チレ。③某ファーストフード店では、ハラペーニョのチレがついてくる。