遺産

 前学期、「メキシコの遺産管理」の授業を受けた。初めに、UNESCOが公式に出している文書を読み、遺産とは何かを知った。また数あるメキシコの遺産について課題で先取りし、授業で深めていった。メキシコでは、INAH(Instituto Nacional Antropología e Historia)という機関が国内の芸術を広く管理している。詳しい解説が載っているINAHのホームページや、論文などを参照した。先住民のメキシコ文化に、スペイン人がやってきたことで様式が持ち込まれる。やがて政治の影響を濃く受けるようになり、今に至る。人類の歴史なしには成り立たない芸術の変遷を学んだ。

 最終課題は、遺産に実際に行って研究するというものだった。私に与えられたテーマは、オスピシオ・カバーニャスHospicio Cabañas。1997年に世界遺産に登録された新古典主義建築の施設だ。グアダラハラの中心にあり、今では文化協会管轄下で、美術館や文化施設として開かれている。情報を集めるべく図書館に通い、オスピシオにも通った。

 18世紀、スペインの司教カバーニャスが統治下のグアダラハラにやってきた際に、侵略によって貧しい人がいることに心を痛める。そんな人々を受け入れることのできる施設を作ることにした。彼の熱意はとても大きく、その精神が受け継がれていく。兵舎となる等の危機を乗り越え、最終的には文化を伝えるための施設として政府に保護された。やがてメキシコを代表する画家オロスコにより壁画が描かれ、その名声はさらに広まることになる。

 学芸員にインタビューをして、管理の現状を知った。オスピシオの前には大きな広場があるが、これはその荘厳さが一目でわかるようにと設置されたこと。以前は内部に駐車場があったりコンサートが開かれたりと騒音がひどかったが、世界遺産の登録後は解消されたこと。長く勤めているからこその話は興味深かった。建物の中心にある壁画の下に立ったとき、感動がこみ上げた。長い歴史を経てオスピシオが現存していて、私がここに立っている。奇跡のようなこの瞬間を、全ての始まりであるカバーニャスに会って伝えたいとさえ思った。

 世界遺産のことをスペイン語で、Patrimonio de la Humanidad(人類の遺産)という。世界の、ではなく人類の、というのが肝心だ。今回、自分の手で調べ上げてみて、その意味するところがわかったような気がする。しかしきっと、世界遺産だけではない。遺産というものは無数に存在していて、それぞれの大切な歴史や使命がある。遺産とは、人類の歩んできた証そのものであり、それを守り伝えていけるのも人類しかいない。全てが「人類の遺産」なのだと、気付かされた。