オーケストラで演奏し始めて2年が経った。初めて交響曲を聞くときは、退屈で仕方ない。1曲は約40分。時々聞きなれたメロディが現れても、あとは淡々と曲が進んでいく。ところが音源を聞き込み、スコアを読み込み、合奏を重ねるうちに、聞き流すことができなくなる。そして、作者の頭の中だけにあったはずの秘境への入口が見え隠れする。
本番は、言葉にできないほど楽しい。それぞれが出した音が、ホールに響く。演奏者だけではなくて、観客も一体となって曲に集中する空間。150年も前から、何度も何度も演奏されてきた曲だが、私たちの演奏でしか出せない音がある。そこには、作者が描いたものとは別の、その場にいた人にしか見ることのできない秘境ができあがる。
12月に向けて、新しい曲の練習が始まった。まだ、この交響曲は退屈だ。私は毎日、嫌々イヤホンを着ける。そして再び、秘境を探し始めるのだ。