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3時間の秘境(三期・三富里穂)

 

  私の1日は27時間ある。あまりに眠るのが下手なので、しばしばロスタイムが生じる。そのロスタイムは、誰にも侵せない秘境である。

 

  真夜中の秘境は恐ろしい。草木も眠る丑三つ時とはよく言ったものだ。この瞬間には誰も息をしていないのではないかとすら思う。

 

  私だけが3時間だけ取り残されたまま地球は廻っていく、この焦燥感がたまらなく恐ろしい。

 

  あるときから私は秘境を存分に楽しむことにした。不可侵を逆手にとって、ラジオと会話したり英文を演劇のように音読したり踊り明かしたりして夜明けを待つのだ。

 

  朝の3時になれば郵便受けに新聞が投函される。4時になれば隣家の主人がランニングに出かける。5時になればバスが動き出す。これらの音は私の秘境を粉々にする。誰かがいる、というその音は私にとって教会の鐘のようなものである。

 

  侵入されるのを心待ちにしながら、今日も私は秘境に足を踏み入れる。あの朝日の暖かさは誰も知る由がないだろう。