日常アレルギーを発症した。娯楽多き時代を生きているのに、毎日退屈で仕方がないのだ。映画を観ても旅をしても、むしろ日常の平凡さが強調されるばかりで、倦怠感は一層強まっていった。もがけばもがくほど沈んでいく蟻地獄の日々だった。
そんなある日、思いがけず抗生物質を発見した。それは、半年近くも本棚に眠っていた世界史の本だった。部屋の掃除中、視界に入ってきたので何気なく手に取って読み始めた。10分後にはもう、ページをめくる手が止まらなくなっていた。知らなかった世界が頭の中に広がってゆくのが快感だった。同時に、読めば読むほど無知な自分を知ることになった。
知らないことすら、知らない。それが私にとっての「秘境」である。果てしなく広がる新境地「秘境」を前にするとき、不安を覚え自信を失う。だが、新たな境地に足を踏み入れた悦びと先の旅路への期待で胸が高鳴るのだ。
アレルギー物質は他でもない、自分自身であった。この先、どんな「秘境」に出会えるだろうか。そう考えるたびに心が弾む毎日だ。