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秘境(三期・大沼歩実)

 「おいしい」は、日常だ。食べるたびに、安心がもたらされる。

 

 

  その瞬間が幸せで、昔から食べることが好きだ。なんてことない食事の一幕でも、思わず口に出てしまう。「おいしい」の可能性は、食材や味の組み合わせの数だけあるのだ。その中の一つと出会えるなんて、奇跡かもしれない。そんな偶然も一緒に噛みしめながら、今日も私は食べる。

 

 

「おいしい」は、私だけの旅だ。同じ「おいしい」は二度とない。経験はどんどん積まれていくから、よく食べる物だとしても、感覚はいつも異なる。未知の食べ物ならなおさらだ。食べる瞬間から、新しい出会いが始まる。食体験は毎日更新されるから、新鮮な「おいしい」を感じる。私にしか行けない、私が今まで味わったことのない世界へと連れていってくれる。

 

 

食べ物を口に運ぶ。「おいしい」のその先で、秘境に辿り着く。