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紙の中から(四期・阿部七海)

 一枚一枚ページをめくる。紙の上に並んだ文字の羅列を目で追う。小さい頃から、ファンタジー小説を読むのが好きだった。

 

 

 例えば、魔法の世界に迷い込んでしまった話。例えば、平凡な少年が王様になる話。そこには、私たちが暮らす場所とは全く異なる世界が広がっている。読み進めるたび、意識は物語の中に深く沈んでいく。そうして、気づけば周りの音が聞こえなくなるほど、その物語に惹き込まれてしまうのだ。

 

 

 文字を追いかけるたび、頭の中に景色が浮かび上がる。書かれた文章を元に世界を創造する。そうして出来上がるのは、私にしか見えない秘境だ。そこには、他の人には決して立ち入ることができない。ファンタジーであるからこそ、見える世界は人によって異なる。それぞれが自分の理想の世界を創り出す。一冊の本に、読者の数だけ秘境が生まれる。

 

 

 ファンタジー小説を読むとき、その世界に惹き込まれた時、私たちは秘境に迷い込むことができるのだ。