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秘境への鍵(四期・村岡里紗)

 

家の扉と共に、私の中の扉を閉めて音の世界に入る。

 

 

お気に入りの歌を口ずさみながら駅へ向かい、満員電車に揺られる。さらに音量を上げ、早足で学校へと向かう。朝が苦手な私の気分を、音楽が上げてくれるのだ。そうして私の一日が始まる。

 

 

しかしある朝、急いで家を出た私は両耳をふさいでいなかった。毎朝のルーティーンを奪われ、憂鬱な一日が始まったのだ。そう思いながら歩いていると、葉の揺れる音が私を呼んだ。ふと見上げると、葉の色が変わり始めていた。夏の匂いもすっかり消え、冷たい風が肌に触れた。いつの間に季節が変わり始めていたのだ。駅までの道のりは、今までより長く、美しく私の目に映し出された。イヤホンを忘れたその日の始まりは、最悪であり最高だった。いつもの道のりが、「秘境」に変わったのだ。

 

 

「秘境」への鍵が見つかった。これからは好きな時に扉を開けることができる。たまには「秘境」で始まる朝もよいのかもしれない。