「この道を通ると近道だよ。」そんな祖母の言葉を信じて、獣道に迷い込んだことがある。
当時、小学生だった私は祖母に連れられ、妹と一緒に近くの丘から隣山の頂上を目指す遠足に出かけた。祖母が子どもの頃からよく通ったという道を、後ろからついていく。しかし、進めど進めどあるのは草木の生い茂る獣道だけ。頂上にたどり着くころには妹も私も疲労困憊で、結局母に車で迎えに来てもらうはめになった。
後から知った話だが、丘から山へは私たちが通った道よりずっと近道の舗装された遊歩道があったらしい。祖母が子供の頃にはなかった道だ。私たちは倍以上の遠回りをして頂上に向かっていた。
当時の記憶は未だに私の中で鮮明に残っている。顔にかかる草や木の枝、疲れて痛む足、そんな記憶をいつまでも覚えているのは、結局私があの遠回りの遠足に魅了されてしまったからなのだろう。いつか私に子どもができた時、教えるのは遊歩道ではなく獣道かもしれない。