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飛び降りる (三期・脇沙里亜)

 地元、北海道根室は坂の多い町だった。学校から帰宅するためには坂を上っては下らなければならず、遠回りのようで煩わしかった。

 

 ある日、坂を上ったところで、住宅と住宅の狭間にある道を見つけた。手入れがされていないため草は生い茂り、薄暗かった。恐る恐る足を進め、道を抜けると実家が見えた。明らかに近道だったがすぐに引き返した。そこは小さな崖になっていたからだ。

 

 それからしばらくして、兄とどちらが早く家に着くか競争になった。彼は全力で走れば遠回りの方が早いと言い張ったが、私は近道を選んだ。競争は、危ないことをするための格好の言い訳になったのだ。

 

 結果は、兄の圧勝だった。崖を無理に降りようとしている私を見上げ、一言馬鹿にして家へ走っていった。負けたことはわかっていたが、崖を飛び降りてみた。絡まる草のせいで脚には生傷ができたし、勝負にも負けた。だが思い切って崖から飛び降りた瞬間の快感は今でも覚えている。

 

 「近道より遠回り」そんな言葉を良く目にするが、近道が遠回りになることもあるのかもしれない。