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明けの明星(五期・田中飛路)

 「どっかいこう」

バイトを終え帰ろうとしていた時、友人からLineが来た。私は家まで遠回りした。

 

 突然の連絡に戸惑いもしたが、私は乗り気だった。このまま直接家に帰りたくなかった。家にいると、就活や将来のことを考えてしまう。そんな時間から少し逃げるように母親に一言、海を見てくるとLineをした。

 

 深夜の首都高を抜け、他愛のない話をしながら伊豆高原城ヶ崎に向かった。真っ暗な海岸には誰もいない。ただ一人灯台が明かりを灯していた。そこには断崖絶壁で立ち入り不可能なところがあった。後から知ったのだがここは自殺の名所らしい。

 

 将来への不安か、人間関係か。何かに追い詰められ、人は死を選んだのだろう。生きることに対して少し真面目すぎたのではないだろうか。所詮人生なんてあの世までの遠回りだ。どうせ遠回りするならゆっくりしていこう。まだ楽しいことがあるかもしれない。

 

 家に着いたのは暁の頃。明けの明星が東に見えた。