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道の選び方(5期・深野弥亜子)

 「ほら、急がば回れ、だよ。」幼いころ、何度も母に言われた言葉だ。

 初めてそう叱られたのはもう15年も前のことだろうか。片手にコップをもったまま空いたほうの手でお茶碗を運ぼうとし、結局どちらもひっくり返してしまった。ご飯を早く食べたい一心でしたことが、むしろ足手まといになってしまった。近道は遠回りだった。

 「急がば回れ」の意味するもの。それは、急いで物事をなしとげようとするとき、危険で何があるかわからない近道よりも、安全確実にたどり着くことのできる遠回りを行くほうがかえって賢明だ、ということらしい。まわりくどいようにみえる道も、いざ進んでみるとかえって歩みは速やかで、どんどん捗る。遠回りこそ一番の近道なのかもしれない。

 一人暮らしの生活も気づけばもう3年目。目の前には就職活動が待っている。あのころのように叱ってくれる母は近くにいないが、あの教えだけは今も、そしてこれからも私に遠回りを選ばせるだろう。