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道を読む(三期・保科南実)

 母は小説を読むのが好きだ。実家の本棚には、母のお気に入りの本がたくさん詰まっている。

 一方、そんな母の娘である私は、本が苦手な子供だった。活字の世界を前にすると集中力が続かなかった。何百ページもある分厚い本よりも、話のゴールに達するまでが速そうな薄い本や、新聞の隅にある四コマ漫画のような、分かりやすいものを好んでいた。

 上京後、大学の図書館で昔母に薦められた小説を見つけ、改めて最初から最後まで読んでみることにした。四コマ漫画のようにすぐにオチは来なかった。だが、紆余曲折する物語の仕掛けに、いつしか没頭して読み進めていた。

 ゴールに辿り着くまで、一見すると遠回りに見える道の過程にも全て意味がある。一つでもその要素が欠けたら道は成り立たない。分厚い小説には、遠回りするからこその面白さが詰まっていた。

 今日はどの道を読み歩こう。遠回りの楽しさを覚えた私の本棚にも、自分なりに歩いた痕跡が積み重なっていく。