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土産話(五期・阿部桃子)

 家までの帰り道、心地よい風を感じた。昼間の強い日差しで熱くなった体が、ゆっくりと冷めていく。自分の中にそっとこの感覚を閉じ込める。

 

 幼いころ、私は土産話を頻繁に家に持ち帰った。小学校の友達と遊んだこと、雨上がりの空が綺麗だったこと。家族に喜んでもらえるのが嬉しかったのか、何でも家に持ち帰り、話をしていた。

 

 しかし年齢を重ねるにつれ、私は土産話をしなくなった。わざわざ話すことでもない、そう考えたのだろう。土産話として人に話すかどうかの基準はどんどん高くなり、日々の考えや感覚を抑え込んでいった。

 

 人に話してこその土産話だと考えていたが、自分の外に出すことだけが土産話ではないのかもしれない。遠くに行かなくても、人のためでなくても、自分だけの感覚として持ち帰ることもできる。抑え込むのではなく、溜める。

 

 夏の終わりの風を体いっぱいに吸い込む。自分だけの・自分への土産として、日々気づく感覚を私の中に溜めていく。