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手土産をもっていこう(五期・田中飛路)

 その年に買ったお土産は確か太宰治生誕100年を記念した「生まれて墨ませんべい」だった。なんだかしょっぱい味がした。

 

 2012年夏、曾祖母が亡くなった。寿命だ。両親が青森の出身のため、夏はいつも青森に帰省していた。開通したばかりの新幹線で千葉に帰る前日のことだ。

 

 曾祖母のことはよく覚えていない。寡黙でいつもにこにこしていた。あまり話したこともない。「ただいま」「またね」ぐらいだった。いつも何を思っていたのだろうか。私に何かできたことはなかったのか。葬式の間、下ばかり見ていた。

 

 90年以上生きた曾祖母。長く決して平たんではない人生の旅を終えた人は何を冥土の土産にしたのだろう。曾祖母に再び会えるのは何年後になるだろうか。できれば次に会うのはもっと先がいい。たくさんのお土産を持って、胸を張っていきたいものだ。

 

 「さらば旅人よ、命あらばまた他日。元気で行かう。絶望するな。では、失敬。」

新青森駅で食べたラーメンの鉢に書かれていた。しょっぱい味がした。