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うさぎのあの子(五期・西内明日香)

 ×の形の口をしたうさぎの子。それがミッフィーだった。 

 

 ミッフィー展へ行った。会場限定のグッズが沢山あるらしい。会場は子連れも多く、つい静かに観たいのにという気持ちがよぎり、慌てて目を逸らす。そうして見て回るうち、あるパネルを前に思わず足が止まった。 

 

 「ミッフィーの口は×の形。まだ多くは話せない、小さな子供の口。」 ハッとした。

 小さい頃の私はどこでも構わず喋り続けていた。言葉をまだ多くは知らなくても、話したいことが沢山あった。「お口はミッフィー、ね」母は口の前で×を作りながらよく言った。そのうちに、私の中で勝手に彼女を「話さない」存在に変えていたのだ。短い言葉で拙いながらも話す、お喋りが好きなうさぎの子。それがミッフィーだったのに。 

 

 お土産のグッズは何も買わなかった。もらった一枚のポストカードを持って帰る。紙の中からじっとこちらを見つめる彼女。今度は真っ直ぐに見つめ返し、壁に刺した。