2018/11/27
車が小刻みに揺れるようになった。道路がアスファルトから砂利道に変わったのだ。更に奥へと進みにつれて道路のすぐそばまで広がる森はどんどん深くなる。何層にも重なるどんよりとした雲の隙間を見つけた小粒の雨だけが地上に降りることを許される。そんな天気も相まって辺りは重厚な雰囲気に包まれていた。牧場のマザーと僕を乗せた車はこのまま出口のない森に吸い込まれてしまいそうだった。 彼女は行き先を告げぬまま牧場を発ったが、どこに連れていかれているのか道中で発見した看板を見ずとも理解した。ここは"Reserve"の中だ。 Reserveとはカナダに住む先住民たちの居住地のことだ。カナダ全体で約3100か所あるという。彼らの人口は140万人程で、これはカナダの人口の4.3%に当たる。一口に先住民と言っても彼らは大きく分けて3つのグループに分けることができる。先住民の60%を占めるファーストネーション(北米インディアン)。彼らとヨーロッパ系の両方を祖先に持つメティス。そして北極圏に住むイヌイットだ。Reserveとは、この内のファーストネーションへ政府から与えられた土地のことを指す。彼らの約半数がこの居住地に住んでいるという。ここでは政府からの社会保障などの支援を受ける一方で、各Reserveは多少の自治権を持つ。カナダという国に属しながら、国や州といった枠組みとは異なる形で存在しているのだ。そのため外からReserveの中へ入ると、陸地に浮かぶ離れ小島のような独特な雰囲気を感じ取ることができる。 牧場に来てから3回目の日曜日、マザーがそんなReserveの一つに連れて行ってくれた。ネイティブスウェットという儀式に参加させてもらえるというのだ。(続く) 【染谷祐希】